私は、奈良・三輪の地が大好きだ。
歩けば歴史にあたる——世界中を探しても、こんな場所は滅多にない。
幼少期、三輪で過ごした日々。
近所のおばちゃんに可愛がってもらい、初市の賑わいに胸を躍らせ、友人たちとカブトムシを追いかけた夏の日々。
その後、中学・高校・大学、そして社会人生活を大阪・京都・東京で過ごし、故郷を離れた。
しかし、2011年、先代の急逝により突然家業を継ぐことになり、十数年ぶりに三輪の地へ戻ってきた。
そのとき、私は 「三輪のすごさ」 をあらためて知った。
何気なく歩いていた道が 日本最古の道 だった。
子供の頃はただの神社だと思っていた場所が 商売発祥の地 だった。
幼い頃には気づかなかった三輪の歴史・文化・風土の奥深さに、私は一気に引き込まれ、休日ごとに奈良の各地を巡るようになった。
しかし、一方で、かつての賑わいが失われつつあることも感じた。
かつて子供たちの声が響いていた公園は静かになり、商店街の店主たちは「商売は厳しく、子どもには継がせられない」と嘆いていた。
こんなに素晴らしい場所なのに、もったいない。
三輪という地が持つ本来の魅力を、もう一度輝かせることはできないか。
酒蔵として、この町の力になれることはないのか。
そう考えたとき、私はひとつの答えにたどり着いた。
三輪伝承蔵
・三輪の地に受け継がれた歴史・文化の語り部となり、後世に伝えたい。
・地元の自然と共に生き、三輪の風土を活かした酒造りをしたい。
・奈良だからこそ磨かれた酒造りの技を、次世代へとつなぎたい。
・人の縁を結び、町の賑わいを生み出す一助となりたい。
三輪伝承蔵の酒造りは至極の液体を醸すことにとどまらない。
地域の歴史・文化を伝承し、自然と共生し、人の縁をつなぐ——そのすべてが融合して初めて、真に完成する。
私たちは、酒造りの原点であり、神と人が交わる奈良・三輪の地で酒の本質を問い続け、伝統と革新が響き合うこの蔵から、新たな歴史を紡ぎます。